「〜と、AIが言っています」
9月のある日、運用をお手伝いしている会社から届いたメッセージの末尾に、この一文がありました。相談の中身はふつうのホームページの相談です。ただ、その根拠がAIの答えでした。別の日には、Google の AIモードの答えをそのまま転送して「ご意見願います」と添えてきた方もいます。
私たちはホームページを作って運用する会社で、AIを使った仕組みも作っています。その私たちに相談する前に、まずAIに聞いてみる。そういう順番の相談が、9月8日から10月9日までに届いたメッセージ263通のうち7通に混ざっていました。たった7通、と思われるかもしれません。でも、ホームページの相談を受ける側として何年もやってきて、相談の前に別の誰かに答えを聞いてから来る人がこれほど続いたことはなく、いま思えばこの7通は、採点する側だったはずの私たちが採点される側に回った合図でした。
そして検索窓には、「人気のAI」「どれを使えばいい」という言葉が並びます。
「人気1位にしておけば間違いない」と言えない事情
AIの活用を広める側としては、ここで「人気1位の ChatGPT にしておけば間違いありません」と答えるのが楽です。読む側もすっきりする。でもそれを言うと、少し嘘になります。
私たちの社内で、ChatGPT は主役ではないからです。開発も、点検も、問い合わせ返信の下書きも、別のAIがやっています。ChatGPT が受け持っているのは画像くらい。声にいたっては、9月29日の朝、代表が2つのAIの声を聴き比べて「完全にジェミニが良い。圧勝してる」と言い、その夜には自社の学習アプリの音声3,314本が Gemini の声に入れ替わっていました。
それなのに、お客様には「まず ChatGPT に読まれる準備をしましょう」とお勧めしています。言っていることと、やっていることが違う。そう見えますよね。私たちも、自分たちの記録を見返して初めて、そう見えることに気づきました。
理由は、お預かりしているサイト1件のアクセス記録にあります。人の代わりにAIがページを読みに来る「代理訪問」のうち、ページをきちんと表示できた854件の97.7%が ChatGPT でした。社内にどのAIを置くかと、サイトにどのAIが来るかは、まったく別の話だったのです。
私たちはこの2つを、分けて呼んでいます。
- 使うAI:社内の仕事をさせるために、御社が選ぶAI
- 来るAI:御社のお客様が使っていて、お客様の代わりにサイトを読みに来るAI

先に答えを書いておきます。使うAIは、いま社内で使っている事務ソフトで選んでください。Microsoft 365 なら Copilot、Google Workspace なら Gemini です。AIの分は1人月3,000円前後で、20人全員でも月6万円ほど。来るAIのほうは、お客様が選びます。御社にできるのは、どのAIが来ても読めるようにサイトを開けておくことだけです。
ここで閉じていただいても、答えは持ち帰れます。ただ「なぜ事務ソフトで選ぶのか」は、私たちが9月にさんざん遠回りをして分かったことなので、もう少しお付き合いください。
ランキングの数字が、記事ごとに違う
この記事を書くにあたって、「一番利用されているAI」のランキングを何本も読みました。そして首をかしげました。1位はどれも ChatGPT なのに、数字がそろわないのです。
| 調査 | ChatGPT | Gemini | Claude | Copilot |
|---|---|---|---|---|
| 世界のウェブ訪問(Similarweb・2026年8月) | 55.5% | 25.6% | 9.3% | 1.6% |
| 世界のアプリとウェブ(Sensor Tower・2026年5月末) | 46.4% | 27.7% | 10.3% | − |
| 日本の利用者2,024人(ICT総研・2026年2月発表) | 36.2% | 25.0% | 4.3% | 13.3% |
| 日本で業務に生成AIを使う1,365人・複数回答(BOXIL・2025年12月) | 64.8% | 42.4% | 12.5% | 50.5% |
どれかが嘘をついているわけではありません。測っているものが違うのです。ウェブの訪問だけを対象にした調査には、スマホのアプリで使った分が入りません。開きが最も大きいのは Copilot で、ウェブ訪問では1.6%なのに、日本で業務に生成AIを使う人の調査では ChatGPT に次ぐ2位。ワードやエクセルの画面の中で動くので、わざわざ Copilot のサイトを訪ねる人がいないのでしょう(Sensor Tower の数字は SBBIT などの報道によります)。

とはいえ、「迷ったら1位」という考え方そのものは、間違っていないと思います。OpenAI は9月29日の開発者向けイベントで週12億人が使っていると発表しましたし、日本でも生成AIを使ったことがある大人は半数を超え、前回の調査からほぼ倍になりました(総務省 令和8年版情報通信白書)。これだけ使われているAIを最初の1つにして、社内で責められることはまずないでしょう。
ただ、この表が映しているのは「世の中の人が、どのAIを使っているか」の地図です。来るAIの地図としては正確です。でも、御社の経理の机や営業の机にどのAIを置くかは、この地図のどこにも載っていません。それを教えてくれたのはランキングではなく、私たちの9月の失敗でした。
9月、社内のAIの席が入れ替わった
時系列で書きます。
9月5日。学習アプリの単語に音声を入れていて、OpenAI の声が「夫(おっと)」を、驚いたときの「おっと!」の調子で読みました。日本語を学ぶ人がこの読み方で覚えてしまったら困ります。単語の声は、マイクロソフトの読み上げの声にしました。試した中には、読みは正確なのに声がアニメの主人公すぎて使えなかったものもあります。声の良し悪しは、表の数字では分かりません。
9月7日。教材のイラストを、使った分だけ払う契約で作っている途中で残高が切れ、生成が止まりました。その日のうちに入金して再開しましたが、残高を見ながら絵を描くというのは、作業の手触りとしてかなり嫌なものです。それ以来「画像に、使った分だけ払う契約は使わない」が社内の方針になり、いまは ChatGPT の有料契約に付いている画像づくりの機能で、9月から10月9日までに5,846枚を作りました。社内での ChatGPT は、白状すると画像係です。
9月26日。「★1の口コミに返信案が作れない」という報告が届きました。口コミへの返信案を作る仕組みが、知らないうちに作らなくなっていたのです。原因は、使っていた Claude の版が提供終了になっていたこと。しかも、エラーが表に出ないまま握りつぶされていました。AIの版は、辞めるときに挨拶をしてくれません。★1の口コミこそ早く丁寧に返したいのに、よりによってそこが黙っていた。いま思い返しても、9月で最も嫌な失敗です。版を新しくして、失敗したときは下書きに保存しない作りに改めました。
そして9月29日の朝。読み違えやすい単語と例文を、それまでの声と Gemini の声で読ませて、代表に聞き比べてもらいました。判定は冒頭のとおり「圧勝」。その場で、単語と例文と文づくり、計3,314本を Gemini の声で作り直すことになったのですが、厄介だったのは Gemini の声が1日100回までしか作れないことで、試している間にその日の枠を使い切ってしまい、上の枠に上げればすぐ続けられるところを、代表の判断は「明日の枠で続ける」でした。急がない。その代わり1回に数十語をまとめて読ませる形に変えて回数を抑え、その夜のうちに配信しました。
ここまで読んで、お気づきでしょうか。ひと月のあいだに、声の係と画像の係が交代し、点検の係が一度動かなくなり、それでも開発と下書きの係は何事もなかったように働き続けていて、もし1つのAIを全員に配っていたら、声の不満ひとつで会社中のAIを入れ替える話になっていたはずです。声を入れ替えた日、開発や画像のAIには手を触れていないのです。

経済史に、ちょうどこの話にあたる逸話があります。19世紀の終わり、アメリカの工場に電気モーターが入り始めたころ、工場主たちは蒸気機関の代わりにモーターを据えました。けれど、天井を走る軸とベルトはそのまま。機械の並びも建物も手つかずで、生産性はほとんど伸びませんでした。伸び始めたのは、機械1台ごとに小さなモーターを付け、軸から自由になった機械を作業の順に並べ替えてからです。統計にはっきり出たのは、最初の発電所が開いてから40年ほど後だったと、経済史家のポール・デイヴィッドが書いています。
人気1位のAIを1つ契約して全員に渡すのは、モーターは入れたのに軸を残した工場に近い、と私たちは考えています。どの仕事にどのAIを置くか。その洗い出しの手順は、AI活用は「月10回以上ある仕事」を数えるところからに書きました。
余談ですが、社内のAIがチャット画面で人と話している時間は、思ったより短いです。自動の仕事用に置いている1台では、AIを呼んだ回数の7割が、点検や返信の下書きのような、人がチャットに打ち込まない仕事でした。「AIを使う」と聞いて画面に向かって質問する姿を思い浮かべていると、使い道の大半を見落とすかもしれません。話を戻します。
社内では画像係のAIが、サイトでは最大のお客さん
冒頭でふれたサイトのアクセス記録を開くと、景色ががらりと変わります。
8月17日から10月9日の昼までに、AIからのアクセスは16,427件来ていました。件数だけなら Meta が最多で、OpenAI や Microsoft などが2千件台で続きます。ただ、その大半は学習や検索の索引づくりのための巡回で、誰かの質問を受けて読みに来たものではありません。

誰かの代わりに読みに来た代理訪問のうち、ページまで表示できたのは854件で、そのうち834件が ChatGPT でした。1日あたりの件数は8月から9月でほぼ3倍になり、社内では画像係のAIが、サイトの側では誰よりも多く扉を叩いている。この記録を初めて見たとき、ChatGPT に対して少しばつが悪い気がしました。
Claude のほうは、もっと複雑です。Anthropic 名義のアクセスの大半は学習用の巡回で、Claude の代理訪問を名乗るもののうち8割以上は、存在しないページへのアクセスでした。中身は設定ファイルや秘密鍵を探すもので、なりすましが疑われます。ChatGPT の名札でも同じ探索がありました。AIの名札は自己申告です。名札だけで、迎え入れてよい相手かどうかは分かりません。ブロックしてよい巡回と受け入れたい巡回の分け方は、AIクローラーをブロックすべきかで整理しました。
Gemini は、正体がつかめません。Gemini アプリ専用の名札がないので、Google 名義のアクセスのうちどれが Gemini の代わりの読み込みなのか、見分けられないのです。見えないからといって、来ていないとは言えない。記録を見る側として、ここは本当にもどかしいところです。
Perplexity は、ページまで表示できた代理訪問が54日で1件でした。1件です。それでも索引づくりには、ほぼ3日に1日のペースで来ています。索引に入ってさえいれば、御社のお客様が Perplexity に何かを尋ねたとき、答えの出典として示される候補には入れます。数が小さいことは、扉を閉める理由にはなりません。
Copilot は、社内で使っていません。触ってもいないAIを、使い込んだような顔で語るのはやめておきます。ただ外せません。運用をお手伝いしている会社からのメッセージに、Copilot の回答が丸ごと引用されていたことがあるからです。Microsoft は7月の決算で、法人向け Copilot の有料席が3,000万に達したと明かしました。ウェブ訪問の順位が低いのは、事務ソフトの画面の中で使われているからです。来るAIとしての Copilot は Bing を経由します。Bing に正しく読まれていることが、そのまま Copilot への備えになります。
ここまでが、5つのAIについて私たちが自分の手と記録で言えることです。長い契約書の点検や決まった作業の自動化なら Claude、メールとドライブが Google の会社なら Gemini、アウトルックとエクセルの会社なら Copilot、事務ソフトがまだ定まっていない会社や文章も画像も1つにまとめたい会社なら ChatGPT の法人プラン、調べものの多い人が1人分だけ Perplexity。そのくらいの粒度で十分だと思いますし、これ以上細かい使い分けの表を作っても、半年後には並びが変わっていて、たぶん誰の役にも立ちません。
もし私たちが、20人の会社のAI係なら
「で、うちはいくらかかるの」と思っている方、お待たせしました。各社の公式ページ(日本向けの表示)で、20人分にした今月の月額です。
| いまの事務ソフトとAI | 20人で月額(1人あたり) | 入力したデータの学習 |
|---|---|---|
| Microsoft 365+Copilot Business | 62,960円(3,148円・年契約・税別) | 使われない |
| Google Workspace Business Standard(Gemini 込み) | 32,000円(1,600円・年間プラン・税別。メールやドライブを含む料金) | 組織の許可がなければ使われない |
| ChatGPT Business | 61,000円(3,050円・年契約・2人以上。税の表記なし) | 初期設定で使われない |
| Claude Team(Standard) | 440ドル(22ドル・年払い・税込み) | 使われない |
Copilot のほうは、Microsoft 365 本体の料金が別にかかります(すでに契約している会社が年内に年契約で申し込むと、初年度は少し安くなります)。月払いにするとどれも少し上がり、ドル建ての Claude は為替で円の額が動きます。AIの分だけで見れば、どれも1人月3,000円前後。正直、ここはどれにしても大差がなく、料金を比べる時間があるなら、誰にどれを持たせるかを考えるほうに使ったほうがいいと思います。

この表を見ると、つい「全員に同じものを」と考えたくなります。ここで、あの工場を思い出してください。もし私たちが20人の会社のAI係なら、全員に同じAIは用意しません。持ち場ごとに割り当てます。
- Microsoft 365 の会社:毎日メールと表計算を使う12人に Copilot(37,776円)、チラシや画像を作る2人に ChatGPT の法人プラン(6,100円)で、合計は月43,876円。全員に Copilot を入れるより2万円ほど安く、画像の係はちゃんと画像の得意なAIになります
- Google Workspace の会社:Business Standard 以上なら、Gemini は最初から入っています(Starter は Gmail など一部の中だけ)。追加は画像を作る2人の ChatGPT の法人プラン、月6,100円です
残りの6人には何も持たせないのか、と思われるでしょう。持たせません。その代わり、「使ってよいAI」を名前で伝えておきます。それが次の話で、たぶんこの記事で最も地味で、最も大事なところです。
社長が先に定めておく3つ
社内で許可されたAIとは別に、個人のAIをこっそり使っている。ばれるだろうか。そんな相談が、この春の Yahoo!知恵袋にありました。20人の会社なら、似たことはもう起きていると考えたほうが自然です。総務省の白書によると、従業員10人以上の中小企業で生成AIを活用する方針がある会社は58.1%で、残りの4割ほどはまだ方針を持っておらず、方針がないあいだ社員は無料版を自分の判断で使います。
- 使ってよいAIを、名前で書く。 「AIは使ってよい」だけでは、個人の無料版を防げません。「Copilot と ChatGPT の法人プランは使ってよい」のように、名前で書きます
- 法人プランにするか、個人アカウントのまま使わせるか。 個人アカウントとは、無料版と個人向けの有料版のことです。法人プランは初期設定で学習に使われません。個人アカウントのままなら、下の表の設定をオフにしてもらいます
- 入れてはいけない情報を、例で示す。 お客様の名前と連絡先、見積もりや契約の金額、社員の個人情報、パスワード。「機密情報」の一語では、どこまでが含まれるかの受け取り方が人によって違います
| AI(個人アカウント) | 学習に使わせない設定 | 補足 |
|---|---|---|
| ChatGPT | 「すべての人のためにモデルを改善する」をオフ | 一時チャットは学習に使われず、保存は最長30日 |
| Claude | 「AIモデルの改善を支援する」をオフ | 許可すると保存5年、許可しなければ30日 |
| Gemini | 「アクティビティの保存」をオフ | オンだと学習に使われ、人が読むことがある。人が読んだチャットは最長3年保存 |
来るAIは、もうお客様の手の中にある
冒頭の「〜と、AIが言っています」に戻ります。
採点される側に回った、と書きました。いまは、それでよかったと考えています。AIに聞いてから相談に来るのは、よく考えればこちらにとってありがたいことで、何を気にしているかが最初から文章になって届くうえに、AIの答えのどこに引っかかったのかまで分かるのですから、電話で一から聞き出すより話が早いのです。むしろ困るのは、AIの答えのもとになるページを、御社のサイトが用意していない場合です。ある人は ChatGPT に聞き、ある人は Copilot に聞く。その答えの材料を探しに、AIがサイトへ読みに来ます。どのAIが来るかは、御社にはどうにもできません。
AI検索での引用状況を追う有料ツールは月5万円ほど(税別)からありますが、私たちは契約しておらず、代わりに9月30日から ChatGPT と Gemini に同じ10問を週1回聞いて答えを画面で記録し、サイトに実際に来た記録と照らし合わせています。地味な作業ですが、どのAIにどのページが読まれていそうか、見当をつける材料にはなります。代理訪問という仕組みそのものは、AIの代理訪問の記事で紹介しました。
今週できることを挙げておきます。「使ってよいAIは○○と○○」と名前で書いた1行を社内で共有すること、そして、サイトがAIの巡回をブロックしていないかを制作会社かWeb担当の方に一度聞いてみること。この2つで十分です。
社内のAIは、御社が選んでください。サイトに来るAIは、お客様が選びます。
自社のサイトにどのAIが来ているか知りたい場合は、アクセス記録の取り方からご相談ください。
