9月10日の夜、この記事を書く前に、自分たちの問い合わせフォームを開きました。これから「フォームの項目は減らすな、形を変えろ」と人に向かって書くのだから、せめて自分のフォームくらいは見ておこう、という、今思えばずいぶん軽い気持ちでした。
出てきたのは6項目のフォームでした。名前、メール、会社名、電話、相談の種類、本文。相談の種類は4つから選ぶ。本文の欄には「お問い合わせ内容をご記入ください」とだけ書いてある。電話番号をなぜ聞くのか、どこにも書いていない。私たちがお客様のサイトで「これは尋問フォームですね」と言ってきた形がそのまま自分のサイトにあって、ばつが悪いというより、何年もこの画面を見ていたはずなのにどうして気づかなかったのか、と自分たちの目のほうを疑いました。あなたの会社のフォームの本文欄には、いま何と書いてありますか。
その夜のうちにフォームを作り直し、それから1か月、届いた数を見てきました。この記事は、その前後の話です。
お急ぎの方は、この記事を約60秒で解説した動画をどうぞ。
営業は「減らすな」と言い、改善の本は「減らせ」と言う
ホームページの問い合わせフォームは、制作の最後に決まります。そしてたいてい、お客様の営業担当から「電話番号は必須にしてほしい」「予算の欄も欲しい」「業種も」と要望が足され、項目は増える方向にしか動きません。制作会社は要望どおりに作る側なので、増やすのに加担しているのは私たちも同じです。
一方で、フォーム改善の話になると必ず「項目を減らしましょう」と言われます。減らすと完了率は上がる。でも営業からは「冷やかしが増える」「電話番号が無いと追えない」と反対が来る。この綱引きを、制作会社は毎回見ています。どちらの言い分も聞けば聞くほどもっともで、制作会社としては、営業の肩を持てば完了率が下がり、改善の本の肩を持てば営業に恨まれるので、ふだんは黙って言われたとおりに作っているんです。
減らせば送信される、は正しい。入力欄が10個あるフォームと3個のフォームなら、3個のほうが送信されます。入力の手間は離脱の理由の筆頭ですから、フォーム改善の本や記事が「まず減らせ」と言うのは間違いではなく、私たちもお客様に聞かれれば、まずはそう答えてきました。
ただ、名前とメールと本文だけにすると、本文に「ホームページについて相談したい」とだけ書かれた問い合わせが届きます。何のサイトか、いつまでに、予算はどのくらいか、全部が分からない。営業は電話で聞き直すか、メールで往復する。入力の手間が、送る側から受ける側に移っただけなんですよね。営業が「減らすな」と言うのは、この往復を知っているからで、正しい反対です。
つまり「減らす/減らさない」の二択で考えている限り、どちらかが損をします。私たちはこの二択を、9月10日まで自分のフォームで放置していました。
2000年、ジャムの試食で分かったこと
ここで一度、フォームから離れます。
2000年、コロンビア大学のシーナ・アイエンガーらが、スーパーの試食コーナーで実験をしました。ある日は24種類のジャムを並べ、別の日は6種類だけを並べる。種類が多い日のほうが立ち寄る客は多かった。ところが実際に買った客の割合は、24種類の日が約3%、6種類の日が約30%。選択肢が多いと、人は立ち寄るが、決められない。「選択のパラドックス」として知られる研究です。

フォームに置き換えると、こうなります。自由入力の欄は「24種類のジャム」です。何を書けばいいのか、どこまで書けばいいのか、相手が何を知りたがっているのか、全部を書く側が考えなければならず、「ご要望をご記入ください」という欄の前で、人は固まります。あなたも、どこかのサイトの空欄の前で手が止まったことがあるのではないでしょうか。一方、選択肢が5つの欄は「6種類のジャム」で、選べばいい。
項目数を減らさなくても、自由入力を選択式に変えるだけで、ジャムは6種類になる。これが「形を変えろ」の中身です。
病院の問診票は、項目が多いのに誰も途中でやめない
もう一つ、身近な例があります。病院の初診で書く問診票です。氏名、生年月日、症状、いつから、既往歴、服用中の薬、アレルギー、妊娠の有無。項目は問い合わせフォームよりずっと多い。それでも途中でやめて帰る人はいません。

理由は3つあると思っています。
- ほとんどが選択式。「発熱・咳・頭痛・その他」に丸をつけるだけで、症状を文章で説明させない
- なぜ聞くかが分かる。「服用中の薬」をなぜ聞くのか、患者は説明されなくても理解している。理由が分かる項目は、多くても苦にならない
- 書いた分だけ診察が短くなると本人が知っている。書く側に得がある
私たちは、フォームを「尋問フォーム」と「問診票フォーム」と呼び分けています。尋問フォームは、なぜ聞くのか分からない項目を自由入力で並べる。問診票フォームは、理由の分かる項目を選択式で並べ、書いた側に得がある。項目数は問診票のほうが多いのに完了率は問診票のほうが高い、というのが私たちの見立てで、お客様のサイトのフォームを見るときは、まずこの二つのどちらかを判定するところから始めます。
9月10日の夜に開いた自分たちのフォームは、尋問のほうでした。
公開されている数字で確かめる
考え方だけでは心もとないので、公開されている改善事例の数字も見ておきます。アプリマーケティング研究所という媒体が、各社が公表した施策と結果をまとめているもので、フォーム関連から4つ抜き出しました。
| 施策 | 何をしたか | 結果 |
|---|---|---|
| 分割 | 長いフォームを複数のステップに分けた(SaaS企業) | 送信率 +70% |
| 事前入力 | 問い合わせ文面のテンプレートを最初から入れておいた(中古車サイト) | 送信率 +22% |
| 選択式 | 予算の自由入力をタップで選ぶ形式に変えた(EC) | 完了率 +6% |
| ノイズ削除 | 注文画面から検索バーなど無関係な導線を消した(家電EC) | 送信率 +2.3% |

4つとも、項目を減らしていません。分けた、入れておいた、選ばせた、周りを消した。全部「形」の話です。他社の数字なので同じことをして同じだけ上がる保証はありませんし、条件も業種もばらばらなのですが、項目を減らさずに上げた、という方向だけはきれいにそろっています。問診票が自然にやっていることを、フォームで意図的にやると、こういう数字になるのでしょう。
9月10日の夜、項目を減らさずに2つ足した
ここからは、自分たちのフォームでやったことです。
まず、減らしませんでした。むしろ2つ足しました。「ご希望の時期」と「ご予算感」。どちらも選ぶだけの欄で、「未定・まず相談したい」「未定・相場を知りたい」を最初の選択肢に置いています。未定と答えてよい欄なら、聞かれても困らないだろう、という読みです。あなたが問い合わせる側なら、「ご予算」と空欄で聞かれるのと、「未定・相場を知りたい」を選べるのと、どちらが楽でしょうか。相談の種類も4択から7択に広げ、「AI活用のご相談」「保守・運用のご相談」のように、いま実際に届いている相談の名前をそのまま選択肢にしました。
次に、すべての欄に、なぜ聞くかを一言ずつ添えました。電話番号には「お急ぎの場合や、メールが届かない場合のみご連絡します」。会社名には「業種や規模に近い事例をご案内するために伺います」。書いてみると意外なことに、理由を一言で言えない欄はひとつもありませんでした。言えない欄があったら、それは消す候補だったと思います。
本文の空欄には、記入例を最初から入れました。「飲食店のホームページを来春までにリニューアルしたい。いまのサイトはスマホで見づらく、予約は電話のみ。まずは相場と進め方を知りたい」という、実際によくいただく相談を一文に縮めたものです。そして問い合わせのページでは、画面の端に貼りついていた「お問い合わせはこちら」のボタンを消しました。問い合わせページで問い合わせページへ誘導する導線は、ノイズ以外の何ものでもありません。
項目は6つから8つに増え、選ぶ欄は1つから3つに増えました。
余談ですが、同じ夜にもうひとつ片づけたことがあります。直近の305通を見返すと、お客様からの相談は8通で、293通が営業のご案内でした。「項目を減らすと冷やかしが増える」と営業担当は言いますが、私たちのフォームで増えていたのは冷やかしではなく、売り込みでした。これは項目数では止まりません。本文の特徴で見分けて別の箱に振り分ける仕組みを入れ、ついでに「その他」の選択肢も消してしまおうという案が出たのですが、お客様の相談も「その他」で届いていたので、これは却下しました。話を戻します。
1か月後に集計した結果と、数字が答えてくれなかったこと
先日の高速化の記事で、問い合わせの数を月別に集計する土台を持っていなかったと書きました。今回は、変える前の数を控えておきました。
変える前の3か月、受信箱に残ったお客様からの問い合わせは月に3通ずつでした。変えてからの1か月で届いたのは188通。そのうちお客様からは1通で、残りは売り込みです。1通は「保守・運用のご相談」を選び、予算は「未定・相場を知りたい」でした。
正直に言えば「問診票にしたら問い合わせが増えました」と書きたかったのですが、1か月で1通では、減ったのか、たまたまなのか、季節のせいなのか、何も言えないのがもどかしいところです。言えるのは、その1通に、相談の種類と時期と予算の目安が最初から入っていたことだけです。前のフォームなら、電話で聞き直していた3つです。送る側の手間は、たぶん増えていない。受ける側の往復は確かに減っていて、これは助かります。
数字が出ていないのになぜ書くのか、と思われるかもしれませんが、「形を変えろ」と人に言う記事を、自分のフォームを尋問のままにして出すよりは、変えてから出すほうがまだましだと考えました。6週間たったらもう一度集計して、ここに書き足します。
ついでにひとつ。この1か月で届いた188通は、売り込みも含めて1通残らずサイトの中に保存されていて、フォームの形を変えても、届いたものが貯まっていく場所のほうは何も変わっていないことに、集計していて気づきました。問い合わせフォームの「置き場」の話は、先日の名簿の記事に書いています。
項目を守りたい営業担当に、私たちが渡す4つ
もし私たちがあなたの会社の担当者で、営業から「項目を減らすな」と言われたら、減らしません。代わりに次の4つをやります。9月10日に自分のフォームでやったことと同じです。

- 自由入力を選択式に。「ご要望」欄を「新規制作/リニューアル/保守/その他」の選択に変え、自由入力は最後の1欄だけ残す
- 各項目に一言の理由を。「電話番号(お急ぎの場合のみご連絡します)」のように、なぜ聞くかを欄の横に書く
- 本文に記入例を入れておく。空欄ではなく、よくある相談を一文に縮めたものを最初から入れておく
- フォームの周りを消す。フォーム画面から、関係のないバナーやメニューを外す
営業は項目を失わず、送る側は考える量が減る。綱引きは、項目数の話をやめた瞬間に終わります。
減らさないでください。問診票にしてください。そして、変える前に数えておいてください。私たちのように、あとで何も言えなくならないように。
あなたのサイトのフォームを「尋問」か「問診票」か判定します。
現在の項目を拝見し、選択式に変えられる欄、理由を添えるべき欄、記入例を入れる欄をまとめてお伝えします。→ お問い合わせ
